東京高等裁判所 昭和32年(う)1759号 判決
被告人 北条新二郎
〔抄 録〕
論旨第一点について。
所論は被告人の自動車運転行為は業務ではないから本件行為は単純な過失致死を以て論ずべきであると主張する。そこで記録を調査すると、原判決挙示の証拠によれば被告人は原判決大和電業株式会社に勤務し、主として資材購入等の事務に従事していたが、昭和二十六年四月頃軽自動車の運転免許を受けている者であること、右会社には住吉某なる専属の自動車運転者はいるが、一週間に二、三回くらいは被告人も右会社の仕事として下請工場等へ資材運搬等のため同会社の自動車を運転していたことが認められる。ところで、刑法第二百十一条にいわゆる業務とは各人が社会生活上の地位に基き継続して行う事務のことであつて、本務たると、兼務たると、またその事務が報酬若しくは利益を伴うと否とを問わないものであることは既に判例の示すところであるから、叙上のような事実がある以上は、被告人は自動車運転の業務に従事していたものと認めざるをえないのである。もつとも記録に徴すれば、被告人が本件事故を起した際は、勤務先の会社の業務とは関係なく、ただ自己の用事のために自動車を運転していたものであることが認められるけれども、たとえ自動車運転者が日常従事する業務遂行のためでなく、たまたま自己の用件のためにのみ自動車を運転した場合でも刑法第二百十一条にいわゆる業務でないとはいえないから、いやしくも被告人が自動車を運転する以上は、自動車運転者としての業務上の注意義務が存することは論をまたないところである。(大審院昭和十三年十二月六日判決集十七巻九〇一頁以下参照)従つて原判決が被告人に原判示のような自動車運転者たる業務上の注意義務のあることを認め、これに違背した被告人に刑法第二百十一条に該当する刑事責任があるとしたのはまことに正当であつて、なんら所論のような事実誤認や法令適用の誤りは存しないといわなければならない。本論旨は理由がない。
(三宅 河原 下関)